2020年、この世界の状況をいったい誰が予想できたでしょうか。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)により、世界は前例のない危機に直面しています。このウイルスの猛威により、世界中のほぼすべての国が影響を受け、多くの国が驚異的な感染率と死亡率を報告しています。
このウイルスがどのように機能して人間を重症化させるのかを調査することは、世界の喫緊の課題と言えるでしょう。
このブログでは、SARS-CoV-2の主要な受容体と、マイクロアレイを用いた喫煙者と非喫煙者の発現パターンにより、重症化の仕組みの一端を解明した文献についてご紹介します。
ACE-2の発現量が多い場合、新型コロナウイルスによる重症化を引き起こしやすい
標的細胞へ感染する際、SARS-CoV-2は受容体に結合します。このウイルスが結合する最も重要な受容体のひとつとして、アンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)があります。
特に血圧の維持に関与しているこの受容体は、肺に発現していることがよく知られています。しかしSARS-CoV-2の感染では、腎臓などのほかの組織にも作用していることが発見されました。
この受容体に着目してSARS-CoV-2感染の経過を予測し、新型コロナウイルスにより重篤化しやすい集団を特定するため、研究が行われました。
そして、ACE-2の発現が多い集団がSARS-CoV-2感染に対してより脆弱である――つまり新型コロナウイルスによって重症化しやすい可能性が示されたのです。
新型コロナウイルスの重症者に喫煙者が多い理由を発見
新型コロナウイルス感染により亡くなった方々の中には、慢性の肺または心血管疾患のある人々、喫煙者または元喫煙者も多くみられます。
では、それはなぜなのでしょうか。
まず、喫煙者と非喫煙者とでどんな遺伝子的な差があるのかを研究したのがサウスカロライナ大学の研究者です1。彼らはApplied Biosystems™ GeneChip™シリーズマイクロアレイデータを用いてヒト肺組織における喫煙者のACE-2発現量と、非喫煙者のACE-2発現量を調査しました。この遺伝子発現解析アレイを用いた結果、ヒトの肺において、喫煙者のACE-2発現量が非喫煙者よりも多いことがわかりました。なお、ACE-2の発現量と民族、性別、年齢との間に相関関係はありませんでした。
この研究は、ブリティッシュコロンビア大学で行われた別の最近の研究2の結果とも一致しています。このグループでもGeneChip遺伝子発現アレイを用いて同じようにACE-2の発現量を比較しています。彼らは慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの慢性肺疾患の肺組織においても、ACE-2の発現が増えていることを発見しました。
新型コロナウイルスSARS-CoV-2はACE-2に結合します。つまり、ACE-2の発現量が多いと重症化しやすいのです。喫煙者や慢性閉塞性肺疾患(COPD)においてACE-2の発現量は多いため、彼らは新型コロナウイルス感染により重症化のリスクが高いことが、これらの研究からわかりました。
まとめ
このように、マイクロアレイの網羅的な遺伝子発現パターンの解析によって、新型コロナウイルスがどういう集団に重症化のリスクを起こしやすいのかを調査することができます。
次世代のマイクロアレイとして、Applied Biosystems™ Clariom™ Dアッセイ とClariom™ Sアッセイがあります。手軽な価格で網羅的な発現解析ができるツールです。
まだまだ未知なことが多いSARS-CoV-2の研究において、今後も遺伝子発現マイクロアレイはさまざまな役割を果たしていくことが期待されています。
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参考文献
1.Cai、G.(2020)2019-nCovの受容体であるACE2の遺伝子発現におけるタバコ使用の格差。プレプリント2020020051(doi:10.20944 / preprints202002.0051.v1)。
2.Leung、J.M. et al。 (2020)喫煙者およびCOPD患者の小気道上皮におけるACE-2発現:COVID-19への影響。 Eur Repir J(doi:10.1183 / 13993003.00688-2020)。
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