T細胞は、免疫反応において大きな役割を果たすリンパ球のサブセットです。 TCR(T細胞受容体)は、内在性膜タンパク質の複合体であって、抗原に反応してT細胞を活性化します。 TCR の刺激は、抗原提示細胞の MHC(主要組織適合性複合体)分子によって引き起こされます。この分子は、抗原ペプチドを TCR 複合体に提示し、一連の細胞内シグナル カスケードを誘導します。 TCR が関与することにより正の(シグナル増強)カスケードと負の(シグナル減衰)カスケードが始まり、最終的に細胞の増殖や分化、サイトカインの産生、活性化誘導細胞死などが誘導されます。 これらのシグナル伝達カスケードは、T 細胞の成長やホメオスタシス、活性化、エフェクタ機能の獲得、アポトーシスなどを調節します1,2

TCR は 6つの鎖で構成され、これによってリガンドを認識する TCR ヘテロダイマーが形成されます。 TCR ヘテロダイマーとともにアセンブルされる CD3 分子(CD3-GammaCD3-DeltaCD3-EpsilonCD3-Zeta)は、ITAM(Immunoreceptor Tyrosine-based Activation Motifs)と呼ばれるチロシンのリン酸化に特徴的な配列モチーフを持っています。 TCR ポリペプチド自体はきわめて短い細胞質尾部を持ち、CD3 分子を通してすべての近接したシグナル伝達イベントを仲介します。 T 細胞の活性化は、MHC-II 分子による抗原ペプチドの提示を受けた TCR と MHC-II に不可欠なアクセサリータンパク質との相互作用により始まります。 細胞認識において、TCR-CD3 複合体の相互作用が重要な役割を果たします。 TCR の抗原への結合が、TCR 関連 CD3-Zeta サブユニットに含まれる ITAM のチロシン リン酸化を引き起こします。 このようなITAMには、Src関連PTKの逐次的な活性化を調節する機能があります。 LckFyn がシグナル伝達を開始すると、これに ZAP70 のシグナルが続き、応答を増幅します。 Lck は、MHC-II と CD4 または CD8 の相互作用で活性化されます。 これら様々なPTKによって、膜貫通型アダプターであるLAT (Linker Activator for T-Cells)をはじめとする幾つかのポリペプチドのチロシンリン酸化が誘導されます。 タンパク質のチロシン リン酸化に続いて、ERK(細胞外シグナル調節キナーゼ)や JNK(c-Jun N 末端キナーゼ)、NF-κBNFAT(活性化 T 細胞の核因子)パスウェイなど複数のパスウェイが活性化され、最終的にエフェクタ機能を誘導します3,4,5

TCR の活性化は、さまざまな共刺激受容体によって調節されています。 CD28 は T 細胞活性化の過程で重要な共刺激シグナルを発し、これにより IL-2(インターロイキン 2)の産生が増大し、T 細胞の増殖が促進され、アネルギーや細胞死が抑制されます。 CD28 は、B7-1 または B7-2 と結合すると、T 細胞と抗原提示細胞の細胞膜同士を隣接させる初期付着性を T 細胞に与えます。 CD28 以外にも、多くの膜貫通受容体が特定の TCR シグナル伝達エレメントを調節します。 CD45(CD45 抗原)は、そのような受容体のひとつです。Lck や Fyn などのチロシン キナーゼのリン酸化状態を制御し、阻害タンパク質の影響を抑制することで、TCR のシグナル伝達を調節して T 細胞の活性を促進します。 Lck は CD28 でも活性化されます。 活性化した Lck は続いて TCR-CD3 複合体のリン酸化と活性化を促し、 結果としてチロシンキナーゼの Fyn および ZAP70(70 kDa のゼータ鎖(TCR)関連タンパク質キナーゼ)を活性化します3。 ZAP70 は、TCR ゼータ鎖との結合を保ち、LAT(T 細胞活性化リンカー)を活性化させます。 LAT は、脂質膜ラフトに付着し、GADS(成長因子受容体結合タンパク質-2 関連アダプター タンパク質)、SLP76 (SH2 ドメイン含有白血球タンパク質 76)、ITK (IL-2 誘導性 T 細胞キナーゼ)に結合する内在性膜アダプター タンパク質です。 LAT は、重要なタンパク質のひとつであるPLC-γ1(ホスホリパーゼ Cγ1)を刺激します。PLC-γ1 は、原形質膜の PIP2(ホスファチジールイノシトール-4,5-二リン酸)を分解して、二次メッセンジャーの DAG(ジアシルグリセロール)や IP3(イノシトール三リン酸)を産生する機能を担っています。 DAG は、PKC-Theta(タンパク質キナーゼ C シータ)や Ras など複数のタンパク質を活性化します。一方 IP3 は、ER(小胞体)表面の IP3R(IP3 受容体)に結合し、Ca2+ を放出します。 このイベントにより、原形質膜の CRAC(Ca2+ 放出活性化 Ca2+ チャネル)が活性化され、細胞外の Ca2+ が流入します。 Ca2+レベルが上昇して、、Calm(カルモジュリン) の抑制作用を阻害することによって、脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが活性化されます。 カルシニューリンの活性化により NFAT が脱リン酸化し、核に移動し、他の転写因子と相互作用してプロモータに結合します1,2,6,7

また、チロシン リン酸化 LAT は、酵素だけでなくアダプター タンパク質 GRB2 ファミリーのさまざまなメンバー、たとえば GRB2、GRAP(GRB2 関連アダプター タンパク質)、GADS(GRB2 関連アダプター タンパク質 2)などと結合し、T 細胞を効率的に活性化するため必要な高分子シグナル伝達複合体の形成を促進します。 チロシン リン酸化 LATと GRB2 との相互作用により、GRB2 と GRAP 関連 SOS を原形質膜に取り込み Ras を潜在的に活性化するメカニズムが生まれます6。 Ras の活性化により、多くのセリン/トレオニン キナーゼが活性化されます。 MAPK(Mitogen Activated Protein Kinases)の最終的な活性化に関与する、Raf1MEK (MAPK/ERKキナーゼ)およびdual-specificity kinases : ERK1/2. 一方 ERK の活性化は、リン酸化 VHR(二重特異性タンパク質ホスファターゼ VHR)による TCR シグナル伝達によってもダウンレギュレートされます。このリン酸化 VHR は、ZAP70 によってリン酸化される二重特異性ホスファターゼです。 Other MAPKs like JNK (c-Jun N-terminal Kinase) and p38 are also activated by ZAP70 and SLP76, downstream of Vav. Vav in turn phosphorylates and activates the GTP-binding protein Rac which further mediates the activation of MEKK1 (MAP/ERK Kinase Kinase-1). p38 は、MKK3(マイトジェン活性化プロテイン キナーゼ キナーゼ 3)/MKK6 の活性化を通して MEKK1 により活性化されます。 一方 JNK は、MKK4(マイトジェン活性化プロテイン キナーゼ キナーゼ 4)/MKK7 の活性化を通して MEKK1 により活性化されます。 これらの MAPK は、ヘテロ二量体転写因子の形成に関与する転写因子、Jun-Fos 複合体や NFAT を直接リン酸化し、Ca2+ シグナル伝達に合わせて IL-2(インターロイキン 2)遺伝子が発現します。 ERKs、JNK、p38 は、 それぞれ Elk1、c-JunATF2(活性化転写因子 2)転写因子を直接リン酸化します。 IL-2 の生成に必要なもうひとつの転写因子は、NF-κB6,7,8 です。

NF-κB ファミリーは、炎症やアポトーシス、免疫反応に関わるさまざまな遺伝子の発現を調節します3。 NF-κB を活性化するには、TCR の刺激と CD28 を介した同時刺激が必要です。 ZAP70 の下流に位置する MAGUK(膜結合グアニル酸キナーゼ ホモログ)ファミリーの CARD11PKCθ 活性化による下流産物の MAP3K(マイトジェン活性化プロテイン キナーゼ キナーゼ キナーゼ)が、ヘテロ三量体 IKK(I-KappaB キナーゼ)複合体の活性化に関与します。 CARD11 は、MALT リンパ腫関連タンパク質と共に作用します。 このタンパク質には BCL10(B-Cell CLL/lymphoma-10)と MALT1(Mucosa Associated Lymphoid Tissue Lymphoma Translocation Gene-1)があり、これらが IKK 複合体を介して NF-κB を調節します。 IKK 複合体は、IκB(B 細胞のKappa軽鎖遺伝子エンハンサー阻害剤)をリン酸化してユビキチン化を誘導し、NF-κB の活性を調節します。 IκB から解き放たれた NF-κB は、核に移動して転写を活性化します。 また、TCR の活性化により ZAP70の下流の GTP 結合タンパク質 Rac や PAK を介して、細胞骨格も再構築されます9,10,11

このパスウェイに関連する免疫反応の過度な活性化を抑えるため、TCR シグナル伝達の負の調節メカニズムも重要です。 SIT(SHP2-Interacting Transmembrane Adaptor Protein)は、新しく同定された膜貫通アダプター タンパク質です。ITIM(Immunoreceptor Tyrosine-based Inhibition Motif)を介して、SHP2(SH2-containing Protein tyrosine Phosphatase-2)と相互作用します。この複合体は、TCR を介したシグナル伝達に対する重要な負の調節因子となります12,13。 休止期ヒトT細胞では、脂質ラフトに見られる膜貫通型アダプター分子であるPAG (スフィンゴ糖脂質マイクロドメイン結合リンタンパク質)は、チロシンがリン酸化されて、Src関連タンパク質チロシンキナーゼの抑制因子である«CSK(c-Srcチロシンキナーゼ)と結合します。 その結果、PAG の過剰発現により TCR を介したシグナル応答が抑制されます。 これらの変化(PAG や CSK との相互作用)は、TCR の刺激への応答により急速に失われます。これは、TCR のシグナル伝達を常に維持するためです。 また CTLA4(Cytotoxic T-Lymphocyte Antigen-4)は、T 細胞活性化に対する負の調節因子となります。 膜貫通タンパク質 CTLA4 は、阻害剤としての役割も果たします。何らかの疾患プロセスの働きにより T 細胞が活性化されると、体内では T 細胞パスウェイが制御不能に陥らないよう抑制するプロセスが働きます。 T 細胞が活性化すると、CTLA4 は細胞表面から急速に取り込まれます。 CTLA4 発現が厳密に制御されている理由は、CTLA4 が CD28 よりも B7-1/B7-2 リガンドに対して強い親和性を示すためです。そこで、CTLA4 が不要の場合は細胞内に取り込まれ、T 細胞が迅速に活性化されて応答を維持できるようにします。 TCR のシグナル伝達を制御する必要性が生じると、ZAP70 は CTLA4 を活発に放出し、細胞表面に誘導するプロセスを活性化します。 細胞表面で CTLA4 は、SHP2 と相互作用して TCR のリン酸化を阻害します。 CTLA4 が T 細胞の機能を阻害するメカニズムは他にもあり、CD28 と共通のリガンドである B7-1 と B7-2 を競合することで、CD28 のシグナル伝達を阻害します14,15

T 細胞の活性化は、あらゆる免疫応答が効果的に進むために必要です。その中でも T 細胞は、癌細胞や体細胞内の病原体を阻害する細胞性免疫反応にとって特に重要です。 T細胞は、拒絶反応にも関与しています。 TCR の刺激により、胸腺細胞と同様に、成熟循環 T 細胞でさまざまな細胞応答が引き起されることがあります。 T細胞機能の調節解除は、T細胞が欠損した場合でも、過剰に存在する場合でも、生体に対して悪影響を生じ、それぞれ免疫不全および自己免疫につながります。 このシステムは、抗原提示細胞上のごく少量のペプチド MHC 複合体で T 細胞の応答を誘発できるため、きわめて敏感なシステムでもあります。 T細胞には免疫応答を調整するうえでさまざまな重要な役割があるため、その知見によって、免疫調整機構に生じた支障がどのように自己免疫疾患につながるのか、そして癌、感染症、自己免疫疾患などの病気を克服する上で免疫系をどのように操ることができるのかについての理解を深めることができます16,17

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