はじめに

連続培養している細胞株では遺伝的浮動を起こしやすく、有限細胞株は老化を運命づけられており、すべての細胞培養は微生物汚染の影響を受けやすく、最も優れたラボでも装置の故障を経験する可能性があります。樹立された細胞株は貴重な資源であり、その交換には多大な費用と時間がかかるため、樹立された細胞株を凍結し、長期保存のために保管しておくすることはきわめて重要です。

継代培養から少量の余剰の細胞が利用可能になり次第、この細胞をシードストックとして凍結して保護し、一般的な実験室での使用に利用可能にすべきではありません。ワーキングストックは、凍結シードストックから調製、補充できます。  シードストックが枯渇した場合、凍結保存されたワーキングストックは最初の凍結から世代数の増加を最小限に抑えた新しいシードストックを準備するためにソースとして機能します。

培養細胞を凍結保存するための最良の方法は、ジメチルスルホキシド(DMSO)などの凍結保護剤の存在下で完全培地中で液体窒素中に保存することです。凍結保護剤は培地の凝固点を下げ、また、より遅い冷却速度を可能にし、細胞を損傷を与え細胞死を引き起こす可能性がある氷晶の形成のリスクが大幅に低減します。

注:DMSO は、組織への有機分子の侵入を促進することが知られています。DMSO を含む試薬は、そのような物質がもたらす危険に適応した装置および手順を用いて取り扱ってください。地域の規制に従って試薬を廃棄してください。

凍結培地
細胞の凍結保存には常に推奨される凍結培地を使用してください。  凍結培地は DMSO またはグリセロールなどの凍結保護剤を含む必要があります。  また、Gibco Recovery Cell Culture Freezing Medium または Gibco Synth-a-Freeze Cryopreservation Medium など、特別に調整された完全凍結保存培地を使用することもできます。

  • Recovery Cell Culture Freezing Medium は、哺乳類細胞培養用のすぐに使用できる完全冷凍保存培地で、最適比率でウシ胎仔血清とウシ血清を含み、解凍後の細胞生存率および細胞回復を改善します。
  • Synth-a-Freeze Cryopreservation Medium は、10% DMSO を含む科学的に定義されたタンパク質不含の滅菌済み凍結保存培地で、メラノサイトを除く多くの幹細胞および初代細胞の冷凍保存に適しています。

材料

  • 増殖対数期にある培養細胞を含む培養容器
  • 完全増殖培地
  • DMSO などの凍結防止剤(細胞培養用に取っておいたボトルを使用。層流フード内でのみ開封)または Synth-a-Freeze Cryopreservation Medium や Recovery Cell Culture Freezing Medium などの凍結培地
  • 使い捨ての滅菌 済み15 mL または 50 mL コニカルチューブ
  • 生細胞数および総細胞数を決定するための試薬および機器(Invitrogen Countess II FL 自動セルカウンター または血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー)
  • 滅菌済み凍結保存バイアル(すなわち、クライオバイアル)
  • 凍結速度制御装置またはイソプロパノールチャンバー
  • 液体窒素保存容器

接着細胞の凍結には、上記の材料に加えて、以下のものが必要です:

  • Gibco Dulbecco リン酸緩衝生理食塩水(D-PBS)などのカルシウム、マグネシウム、フェノールレッドを含まない平衡塩溶液
  • トリプシンまたは Gibco TrypLE Express などの、フェノールレッドを含まない解離試薬

培養細胞を凍結保存するためのプロトコル

動画:細胞の凍結

この動画は、最適な細胞の健康を維持しながら細胞を凍結するために必要な重要な手順を示しています。  必要な機器、凍結の準備方法、細胞への損傷を防ぐために適切なペースで慎重に行われる各手順を確認します。

以下のプロトコルは、培養細胞の凍結保存するための一般的な手順を説明しています。  詳細なプロトコルについては、常に細胞固有の製品添付文書を参照してください。

  1. 凍結培地を調製し、使用するまで 2 ~ 8 °C で保存します。  適切な凍結培地は細胞株によって異なることに注意してください。
  2. 接着細胞の場合、継代培養中に使用した手順に従って、細胞を組織培養容器から静かに剥離します。  その細胞の種類に必要な完全培地で再懸濁します。
  3. 血球計算盤、セルカウンターおよびトリパンブルー色素排除法、または Countess 自動セルカウンターを使用して、細胞の総数と生存率を決定します。  望ましい生細胞密度に応じて、凍結培地の必要容量を計算します。
  4. 細胞懸濁液を 100 ~ 200 x g で 5 ~ 10 分間遠心分離し、細胞ペレットを乱さないようにして上清を無菌的にデカントします。

    注:  遠心分離の速度および時間は、細胞の種類によって異なります。

  5. 細胞の種類に対して推奨される生細胞密度で細胞ペレットを低温の凍結培地に再浮遊させます。
  6. 細胞懸濁液のアリコートを凍結保存バイアルに分注します。  分注の際には、細胞を頻繁に穏やかに混合して均一な細胞懸濁液を維持します。
  7. 凍結速度制御装置内で細胞を凍結し、温度を1 分あたり約 1 °C下げます。または、細胞を含むクライオバイアルをイソプロパノールチャンバーに入れ、-80 °C で一晩保存します。
  8. 凍結細胞を液体窒素に移し、液体窒素上の気相中に保管します。

凍結保存のガイドライン

以下のガイドラインに従うことは、将来の使用のために細胞系を凍結保存するために不可欠です。  他の細胞培養手順と同様に、最良の結果を得るためには細胞株に提供されている指示に厳密に従うことをお勧めします。

  • 培養細胞を高濃度で、できる限り少ない継代数で凍結します。  凍結する前に細胞の生存率が 少なくとも90%であることを確認してください。最適な凍結条件は使用する細胞株によって異なることを注意してください。
  • 凍結速度制御装置または Thermo Scientific Nalgene ラボウェア(Nalge Nunc)から入手可能な「Mr. Frosty」などのクライオ冷凍容器を用いて 1 分あたり約 1 °C 温度を下げて細胞をゆっくりと凍結します。
  • 常に推奨された凍結培地を使用してください。  凍結培地には DMSO またはグリセロールなどの凍結保護剤を含まれている必要があります(継代培養とはを参照してください)。
  • 細胞は -135 °C以下の液体窒素気相で保存する必要があります。
  • 凍結細胞の保存には常に滅菌済みクライオバイアルを使用してください。  凍結細胞を含むクライオバイアルは、液体窒素に浸した状態で、または液体窒素上の気相で保管できます(以下の安全上の注意を参照)。
  • 常に個人用保護具を着用してください。
  • 細胞と接触するすべての溶液および機器は無菌でなければなりません。  常に適切な無菌操作を使用し、層流フード内で作業します。

安全上の注意  バイオハザード物質は、必ず液体窒素上の気相で保存する必要があります。密封したクライオバイアルを気相で保存することにより、破裂のリスクが回避されます。  液相保管を行っている場合は、ガラス製およびプラスチック製の両方のクライオバイアルに破裂の危険に注意し、常にフェースシールドまたはゴーグルを着用してください。

For Research Use Only. Not for use in diagnostic procedures.